理事長ご挨拶

井手 康人(いで やすと)
日本芸術教育財団 理事長
日本美術院 同人
愛知県立芸術大学 教授

一般財団法人日本芸術教育財団は、芸術教育の振興を図り、創造的な社会の発展に寄与することを目的としています。その特徴は、様々な芸術分野の専門家が集まり、伝統から最先端までを扱いながら、芸術教育全体の裾野を広げる活動をしている点にあります。

芸術の根幹は感性です。あらゆる教育において、感性は必要不可欠です。不確実性が高まり、価値観が急速に多様化する予測困難な時代において、臨機応変な試行錯誤や探求を実践する芸術の価値と役割は、一層重要になります。芸術とは、人の感情や価値観を受けとめ、唯一の正解がない問いに向き合いながら、表現としてかたちにしていく営みです。一方で、定型的な課題を大量かつ迅速に処理する能力は、AIの進展によって急速に代替が進みつつあります。

芸術は時に、特殊で不可解なものと捉えられがちです。しかし私たちの身近には、すでに芸術が根付いています。文学は言葉の芸術であり、翻訳は訳者の感性によって原作のイメージが微妙に変化します。同じ楽曲が演奏者によって異なる印象をもたらすのも、同じでしょう。これからの時代には、基礎科学にも、介護にも、ロボットにも、感性の力が求められます。経済活動や商品開発においても、顧客の感性に届く訴求力が問われています。

美を見いだし、共有する力は、人間に固有の営みだと思います。人間の尊厳と気高さは、まさにその点に宿ります。先進国の多くでは、芸術を人間形成の根幹として捉え、その意義をさまざまな制度に組み込む工夫がなされており、学ぶべき点もあります。これから芸術の価値を、日本で具体的にどのように実現していくのか、皆様とともに考え、歩んでまいります。

井手康人《神々の視座》
再興第105回院展(日本美術院) 内閣総理大臣賞
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